拙者放浪記 もうじき日暮れ
〜〜〜拙者放浪記 もうじき日暮れ
時間というのはきっと、意外とデタラメに流れているに違いない。
そう信じてやまないのも、日々の生活からもそのとおりであるし、何より日光街道杉並木を越えたその瞬間、強く感じました。
そもそも杉並木というのはああいう場所です。
空は年老いた杉に覆い包まれ、薄暗く、蜘蛛が糸を張ってジメジメした場所なのですが、そのおかげで外界との繋がりが希薄で、なかなか奇妙といえば奇妙な雰囲気を放っていました。
きっとあんな場所を日暮れ、真夜中に通り抜けようものなら、たちまち女子供などというものはさらわれて、人の世の暗い部分を香らせるに違いない―――
などと、妄想してしまったりするぐらい、とても日が落ちた後には通りたくない土地でした。
ですからようやく苦労して、その杉並木を通り抜けたとき、私はあの場所に時間を盗まれてしまったのではないか、愚かな幻想を抱いたものです。
そんなに長いはずの道ではないのですが、確かにその道を通る前は、春の強烈な陽射しが私を焼いていました。
なのにようやく抜け出した私と再会した空は、意外なほどその趣を変えて、仄かに蒼褪めていたのです。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
そういったわけで、いつの間にか宵の匂いを空は香らせて、私は焦りました。
一日目の宿泊地点に予定していた施設はまだ遠く、このままでは宵闇で目的地を探し出すのに苦労、あるいは見失い、気づかず通過してしまうのではないか。
明日への十分な休憩時間は得られるのか。
途端に不安になって、このような狂言染みた放浪を始めた自分に呆れました。
しかし、そんなことを考えていても始まらない。
そのことを頭から振り払うと、とにかく体力を無駄にロスすることがないよう気を使いながら、ペダルを踏む速度を上げたのです。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
狭山市。
かすかに覚えています。
その道中、狭山市という場所を通り過ぎました。
私の通った407号線の狭山市はなかなか風情豊かで、段々飽きて冗長に感じてきた風景たちが、途端に色づきました。
・・・・・・といっても、記憶は既におぼろげで、もしかしたら他の町だったのかもしれませんが・・・。
しかしまあとにかく、宿泊施設までの道中、興味味わいある街並みを眺められたのは、記憶のとおりです。
さまざまな街並みを眺めながら、しみじみ思いました。
国道を通ってゆくと、町と町との境界線がわかります。
それは看板や、町の名前を頭にもってきた施設名、店舗名などからも見てとれるのですが。
それを見て、ああやっぱりと、思うのです。
町と町との境界線を抜けると、がらりと風景雰囲気は変ってしまいます。
同じ地続きの土地なのですから、そうそう変るわけでもないじゃないか。
そうは思っていたのですが、やっぱり、よそ者の私などから見ると、境界線が見てとれるようです。
貧しい町があれば、豊かな町もありました。
テニスコートや体育館、大きな公演施設。公園施設。
ああ、この町は豊かだなぁ・・・と、ちょっと暮してみたい土地もあれば。
何もない。
とにかく何もない。
小さな工場、店舗、更地、廃墟、あばら家。
そんな印象しかない町もあります。
田舎ほど自然が豊かで、風情溢れるわけでもなく、ただ寂れて、没個性な町としてそこにたたずんでいるのです。
そういった土地は退屈です。
町全体に活気がなく、元気を吸い取られているかのような気分でした。
・・・・・・。
・・・。
旅人にとって観光都市は本当に居心地が良いです。
なにせ、向こうの側からよそ者の私を受け入れてくれるのですから。
人々もそれで稼いでいる自覚があるのか親切で、いったんペダルを止めてどこかのお店に入ってしまおうか、私を誘いました。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
それから―――
・・・・・・。
そう、横田基地の横を通りました。
外人さんが大通りを闊歩して、時刻もあったのか思い思いに買い物を楽しんでいました。
キレイな白人のお姉さん。
マッチョな軍人さん。
退役したのか、老齢のお爺さんもいました。
ちょうど通った場所が外国人通りだったのか、むしろ日本人の方が珍しいぐらいで、そしてそのお店お店一つ一つが、見慣れないものでひしめいていました。
まさに異文化。
左手の柵の向こうからは、航空機の甲高い音が何度も響いて、まさに目を丸くして走り抜けたものでした。
というか、半分ビビってました・・・。
だってどいつもこいつもマッチョでいかつくて、人によってはもろ軍服。
ここどこ?!マジ?!うおおおおおおおおおおお、ごめんなさいっ!
僕なにもしてませんっ!本当ですっ!とりあえず逃げるっっ!
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
はっきりいって挙動不審だったカモ?
戻る